「声を前に出す」とは?こもらない、まっすぐ届く声の練習
「もっと声を前に出してみて」 「声が前に出ていないね」
歌のレッスンや合唱の練習で、こんなふうに言われたことはありませんか。声は口から出ているはずなのに、「前に出す」と言われても、どうすればいいのか、ぴんとこない方も多いと思います。
わたしは息子といっしょに、たくさんのコンクールに出てきました。
この記事では、歌で「声を前に出す」とはどういうことなのかを、やさしいことばでお話しします。ことばの意味、声が前に出ないと感じるときに見直したいこと、おうちでできる練習までをまとめました。
なお、声を前に出す、という言い方も、先生によって伝え方がちがうことがあります。ここでは、よく使われる考え方のひとつとして読んでみてください。
「声を前に出す」とは?ことばの意味
声が「まっすぐ届く」感じのこと
声を前に出すとは、ひとことで言うと、声が自分の体の中にとどまらず、聞いている人のほうへ、まっすぐ届くように歌うことです。
実際に声が目に見えて前へ飛んでいくわけではありません。ただ、歌っている人が「声が前のほうでひびいている」と感じるとき、聞く人には、声がはっきり、近くに聞こえることが多いと言われます。
大きな声とは、少しちがう
「前に出す」と言われると、大きな声で歌えばいいのかな、と思うかもしれません。でも、大きな声を出しても、のどの奥でこもってしまえば、前には届きにくくなります。
反対に、小さな声でも、ことばがはっきりしていて、ひびきが前にあると、遠くの人にも聞きとりやすくなります。声を前に出すことは、声の大きさより、ひびきの向きやことばのはっきりさに近い話です。
先生がこのことばを使うとき
先生が「声を前に」と言うときは、たとえばこんな状態をさしていることがあります。
- 声が、のどの奥や口の中にとどまっている感じがする
- ことばが、ぼやけて聞きとりにくい
- 声が、下を向いて落ちていくように聞こえる
- ひびきが、うしろのほうに引っこんでいる感じがする
どれにあたるのかがわからないときは、「どのあたりが、前に出ていないですか」と、先生に聞いてみるとよいと思います。
声が前に出ないと感じるとき、見直したいこと
顔の向きと目線
下を向いて歌うと、声も下に落ちやすくなります。楽譜や歌詞を見ながら歌うときは、とくに顔が下がりがちです。目線を、少し遠くのかべや、聞いている人のあたりに向けるだけで、声の感じがかわることがあります。
口の開き方
口がほとんど開いていないと、声が口の中にとどまりやすくなります。反対に、むりに大きく開けすぎても、あごに力が入ってしまいます。自然に、指が縦に1本か2本入るくらいを目安にしてみましょう。人によって楽な開き方はちがうので、鏡を見ながらためしてみてください。
舌の位置
舌が、のどの奥のほうへ引っこんでいると、声がこもった感じになりやすいと言われます。歌っていないとき、舌の先は、下の前歯のうらに軽くふれているくらいが楽な位置です。
気持ちが「自分の中」に向いている
うまく歌えるかどうか、音をはずさないかどうか、ということばかり考えていると、声も内側に向きがちです。「この歌を、だれかに届ける」という気持ちを持つだけで、声が前に向くと感じる方もいます。
録音したときに声がこもって聞こえる原因や直し方は、こちらの記事でくわしくまとめています。歌声がこもる原因と直し方。録音すると声が聞きとりにくいときの見直しポイント
声を前に出す練習
ここからは、おうちでできる練習をしょうかいします。どれも、のどに力を入れず、楽な声の大きさではじめてください。
1 ハミングで、顔の前のひびきを感じる
口をとじて、「んー」とハミングします。このとき、くちびるや鼻のあたりが、むずむずとふるえる感じがあるかを感じてみましょう。
そのふるえを感じたまま、少しずつ口を開いて「んー、まー」と声にしていきます。ひびきが、顔の前のほうにのこっている感じを、つかんでみてください。
2 「ま・め・み・も・む」で、くちびるを使う
「ま」の音は、くちびるを閉じてから出すので、ひびきが前に集まりやすい音です。
- 楽な高さで「まー」とのばします
- 次に「ま・め・み・も・む」と、1つずつ区切って言います
- なれてきたら、ドレミの音に合わせて歌ってみます
くちびるが、軽くはじけるような感じを大切にしてみましょう。
3 手のひらに声を当ててみる
顔の前の、少しはなれたところに、手のひらを向けておきます。その手のひらに向かって、「あー」と声を当てるようなイメージで歌ってみましょう。
次に、手をもう少し遠くにはなして、同じように声を当ててみます。声を「どこに届けるか」を、手で決めておくと、前に向ける感じがつかみやすくなります。
4 話すように歌う
歌になると、急に声がこもってしまう方もいます。そんなときは、歌詞を、ふつうに読むように声に出してみましょう。
- 歌詞を、メロディをつけずに読みます
- 同じ歌詞を、少しだけ声を高くして、ゆっくり読みます
- そのまま、メロディをつけて歌ってみます
話しているときの、ことばのはっきりさを、歌にも持ちこむイメージです。
5 遠くの人に呼びかけるように
部屋の反対側に人がいると思って、「おーい」と呼びかけるように声を出してみます。どなるのではなく、相手に届けるつもりで、やさしく呼びかけるのがポイントです。
その感じのまま、短いフレーズを歌ってみましょう。声の向きがかわるのを感じられるかもしれません。
6 ことばのはじめの音をはっきり言う
声が前に届くかどうかは、ことばのはじめの音にも左右されます。「か」「た」「ぱ」のような音を、口先でかるく、はっきり言うようにすると、ことばが前にとび出すように聞こえることがあります。
- 「か・た・ぱ」を、ゆっくり、はっきり言います
- 次に、少しずつ速くして、くり返します
- そのあと、歌詞のはじめの音を、同じようにはっきり言ってから歌ってみます
強く言おうとして、のどに力を入れないように気をつけましょう。口のまわりを楽にして、くちびると舌の先を、こまかく動かすイメージです。ことばをはっきり言う練習は、こちらの記事でもしょうかいしています。歌の滑舌をよくする練習。ことばがはっきり伝わる歌い方
7 録音して、聞きくらべる
練習の前と後で、同じフレーズをスマホで録音してみましょう。ことばが聞きとりやすくなっているか、声が近くに聞こえるかを、聞きくらべてみてください。
自分の耳で聞く声と、録音した声はちがって聞こえるものです。録音で聞くと、変化に気づきやすくなります。
練習するときの注意
押し出そうとしない
「前に出す」を意識しすぎて、声をむりやり押し出すと、のどに力が入ってしまいます。首すじがかたくなったり、声がかすれたりしたら、一度やめて、楽な声にもどしましょう。
あごを前につき出さない
声を前にしようとして、あごや顔が前につき出てしまうことがあります。横から鏡で見て、首がまっすぐか、あごが上がっていないかをたしかめてみてください。
鼻にかかった声とまちがえない
顔の前のひびきを意識すると、鼻にかかった声になってしまうことがあります。鼻をつまんで歌ってみて、声が大きくかわってしまう場合は、ひびきが鼻にかたよっているのかもしれません。わからないときは、先生に聞いてみてください。
のどがつかれたら休む
練習のあとにのどが痛い、かすれる、という状態が続くときは、むりをせず休みましょう。数日たってもよくならないときは、耳鼻科などのお医者さんに相談してください。
お子様と練習するときは
お子様に「声を前に出して」と言っても、なかなか伝わらないことがあります。そんなときは、イメージしやすいことばにかえてみましょう。
- 「お部屋のいちばんうしろの、ぬいぐるみに届けてみよう」
- 「やまびこみたいに、遠くに声をとばしてみよう」
- 「おててのひらに、声をのせてみよう」
大きな声を出させるのではなく、「届ける」ことを楽しめるようにするのがおすすめです。どなるような声になってきたら、少し声を小さくして、もう一度やってみましょう。
まとめ
- 声を前に出すとは、声が体の中にとどまらず、聞く人のほうへまっすぐ届くように歌うこと
- 大きな声を出すこととはちがい、ひびきの向きやことばのはっきりさに近い
- 声が前に出ないと感じたら、顔の向き、口の開き方、舌の位置、気持ちの向きを見直す
- ハミング、「ま」の練習、手のひらに当てる練習、話すように歌う練習がやりやすい
- 押し出したり、あごをつき出したりしないように注意する
- のどの痛みやかすれが続くときは、お医者さんに相談する
声を前に出す感覚は、ひとりではつかみにくいこともあります。先生に聞いてもらいながら練習すると、自分の声のどこをかえればいいのかが、わかりやすくなります。お子様といっしょに練習しているご家庭は、こどもの歌声グランプリにも目を向けてみてください。オンラインの動画審査だけで出られて、幼児からシニア(65歳以上)までの8部門があり、ジャンルは自由です。講評とデジタル賞状がとどくので、声の届き方をふりかえるきっかけにもなると思います。こどもの歌声グランプリ