歌っていて泣いてしまう大人の方へ。気持ちが入りすぎるときの歌い方と、心のととのえ方
「好きな歌を歌っていると、とちゅうで声がつまって、泣いてしまう」 「思い出のある歌だと、どうしても最後まで歌いきれない」
大人になってから歌を習っている方の中には、こんななやみを持っている方がいらっしゃいます。歌っていて泣いてしまう大人の方は、けっしてめずらしくありません。それだけ、歌とまっすぐ向き合っているということでもあります。
わたしは息子といっしょに、たくさんのコンクールに出てきました。
この記事では、歌っていて泣いてしまう大人の方にむけて、なぜ感情を込めすぎて泣くことが起きるのか、練習のときにできること、本番でなみだが出そうになったときの工夫をまとめました。気持ちをおさえこむのではなく、気持ちと上手につきあいながら歌うためのヒントとして、読んでみてください。
歌っていて泣いてしまうのは、おかしなことではありません
大人だからこそ、歌に心が動く
大人は、それまでにたくさんの思い出や出会い、わかれを経験してきています。歌のことばやメロディーが、そうした思い出とむすびつくと、心が大きく動くことがあります。
- 家族との思い出がある歌
- 大切な人を思い出す歌
- むかし、よく口ずさんでいた歌
- 今の自分の気持ちにぴったり重なる歌
こうした歌を歌うときに、なみだが出てくるのは、とても自然なことです。「大人なのに、はずかしい」と思わなくてだいじょうぶです。
泣いてしまうと、なぜ歌いにくくなるのか
なみだが出そうになると、のどのあたりがきゅっとしまったように感じる方が多いです。息が短くなったり、声がふるえたり、鼻がつまったりして、ふだんどおりに歌うのがむずかしくなります。
つまり、困っているのは「泣くこと」そのものより、「泣くと声が出にくくなること」なのかもしれません。そう考えると、少し気持ちが楽になりませんか。気持ちをなくす必要はなく、声が出にくくならない工夫をしていけばよいのです。
感情を込めすぎて泣くときに、知っておきたい考え方
「感じる自分」と「伝える自分」を分けてみる
歌には、ふたつの面があります。ひとつは、歌のことばやメロディーを自分の心で感じること。もうひとつは、その気持ちを聞いている人に伝えることです。
歌っていて泣いてしまうときは、「感じる自分」がとても大きくなって、「伝える自分」が追いつかなくなっていることが多いです。
伝える役わりのときは、少しだけはなれたところから、自分の歌をながめるイメージを持ってみてください。物語を読み聞かせる人のように、「この歌の主人公は、こんな気持ちなんだな」と、一歩うしろに立つ感じです。
聞く人が泣ける歌を目ざす
歌い手が泣いてしまうと、聞いている人は「だいじょうぶかな」と心配になって、歌に集中しにくくなることがあります。
反対に、歌い手が気持ちをしっかり持ちながら、ていねいに歌いきると、聞いている人の心に、じんわりと気持ちがとどきます。なみだを流すのは、歌い手ではなく聞く人。そんなふうに考えると、気持ちの向け先が少しかわってきます。
歌に気持ちをこめるやり方は、こちらの記事でもくわしくお話ししています。歌に気持ちをこめるには?歌詞の読みこみ方と、表情・声の色のつけ方
気持ちは「たくさん」より「ちょうどよく」
気持ちをこめることは、歌にとってとても大切です。ただ、こめすぎると、声やリズムがくずれてしまうことがあります。
料理の味つけのように、気持ちにも「ちょうどいい量」があります。全部の気持ちを出しきるのではなく、心の中に少しのこしておく。そのくらいのほうが、かえって深い歌になることもあります。
練習のときにできること
なみだが出やすい場所を見つける
まずは、どこでなみだが出やすいのかを知るところからはじめましょう。歌を通して歌ってみて、声がつまりそうになった場所に、楽譜や歌詞のプリントでしるしをつけておきます。
- 特定のことばが出てくるところ
- 曲がもり上がるところ
- 最後のしめくくりのところ
- 前奏や間奏のあと、歌いだすところ
場所がわかると、「ここが来るぞ」と心の準備ができます。気づかないうちに泣いてしまうよりも、ずっとあつかいやすくなります。
声を出さずに歌詞を読む
なみだが出やすい場所は、まず声を出さずに、歌詞を目で読んでみましょう。次に、メロディーをつけずに、ふつうの話し声で読んでみます。
何度もことばにふれるうちに、心がそのことばになれていきます。はじめは胸がいっぱいになっても、くり返すことで、少しずつ落ちついて読めるようになることが多いです。
ハミングや「ラ」で歌ってみる
歌詞をつけると泣いてしまうときは、口をとじて「んー」とハミングしたり、「ラ」だけで歌ったりしてみてください。
ことばの意味からいったんはなれて、メロディーや息の流れだけに集中する練習です。音の高さや息つぎの場所が体にしみこんでくると、歌詞をつけたときも、声がくずれにくくなります。
技術のことに目を向ける
気持ちが大きくなりそうな場所では、あえて「技術のこと」を考えるのも、ひとつの方法です。
- ここは、息をたっぷり吸っておく
- このことばは、口を大きくあける
- この音は、まっすぐのばす
- ここで少しだけ声を小さくする
考えることがはっきりしていると、頭がそちらに向くので、気持ちにのみこまれにくくなります。先生に「ここで気をつけることは何ですか」と聞いて、いっしょに決めておくのもおすすめです。
録音して、聞く人の立場で聞いてみる
練習を録音して、あとから聞いてみましょう。自分が歌っているときは胸がいっぱいでも、録音を聞くと「思ったより落ちついて聞こえる」「ここは声がふるえている」など、聞く人の立場で歌をとらえやすくなります。
聞く人の耳で自分の歌を聞くことは、「伝える自分」を育てる練習にもなります。
本番でなみだが出そうになったときの工夫
歌う前にできること
本番の前は、気持ちがたかぶりやすい時間です。歌の世界に入りこみすぎないように、少しだけ現実にもどる工夫をしておきましょう。
- ゆっくり息をはいて、肩の力をぬく
- 足のうらが、ゆかについている感じをたしかめる
- 手をにぎったり、ひらいたりする
- 客席の、おだやかな顔の人を見つけておく
体の感じに目を向けると、心が少し落ちつきやすくなります。
歌っているとちゅうで、こみ上げてきたら
歌っているとちゅうで、なみだがこみ上げてくることもあります。そんなときは、次のようなことをためしてみてください。
- 目線を少し上げて、会場のうしろのほうを見る
- 次のことばの、はじめの音だけに集中する
- 息を口から長めにはいて、のどの力をゆるめる
- 歌詞の意味ではなく、メロディーの形を思いうかべる
目線を上げると、気持ちが外に向きやすくなるといわれています。うつむくと、気持ちが内側にこもりやすくなるので、少しだけ顔を上げる意識を持ってみてください。
声がつまっても、歌いつづける
もし声がつまってしまっても、すぐにやめなくてだいじょうぶです。伴奏が流れているなら、次の区切りから入りなおせばよいのです。少し声がふるえても、最後まで歌いきろうとする姿は、聞いている人の心にしっかりのこります。
ひと息おいて、また歌いはじめる。それだけで、歌はつながっていきます。
気持ちと歌の、ちょうどいい距離のとり方
何度も歌って、歌と仲よくなる
はじめて歌う歌や、思い入れの強い歌ほど、気持ちがゆれやすいものです。何度も歌っていくうちに、歌は少しずつ「自分のもの」になっていきます。
歌と仲よくなると、気持ちに流されるのではなく、気持ちを自分でえらんで出せるようになっていきます。あせらず、時間をかけて向き合ってみてください。
つらい思い出の歌は、むりに歌わなくてもいい
中には、歌うたびに、つらい気持ちがよみがえってしまう歌もあるかもしれません。そんなときは、むりにその歌をえらばなくてもかまいません。
今の自分が、気持ちよく歌える歌をえらぶことも、大切なことです。時間がたって、心の準備ができたときに、あらためて歌ってみるのもよいと思います。
泣いてしまった日を、責めない
練習や本番で泣いてしまった日があっても、自分を責めないでください。それは、歌にしっかり心を向けていたあかしです。
「今日はここまで歌えた」「この場所は落ちついて歌えた」と、できたことにも目を向けてみましょう。小さな前進をみとめることが、次の歌につながります。
先生や仲間に相談してみる
先生に正直に伝える
歌っていて泣いてしまうことは、先生に正直に伝えてかまいません。多くの先生は、同じようななやみを持つ生徒さんと向き合ってきています。歌い方の工夫や、気持ちの持っていき方を、その人に合わせていっしょに考えてくれることが多いです。
もし今の教室で相談しにくいと感じたら、話を聞いてくれる先生をさがしてみるのもひとつです。教室によって、レッスンのふんいきや先生のスタイルはちがいます。
人前で歌うことになれていく
人前で歌う回数がふえると、本番のふんいきにもなれていきます。教室の発表会や、仲間うちの小さな集まりなど、気軽な場所で歌ってみるのもおすすめです。
ステージに少しずつなれていくと、気持ちのゆれも、だんだんおだやかになっていくことが多いです。
まとめ
- 歌っていて泣いてしまう大人の方は、めずらしくない。それだけ歌に心を向けているということ
- 困るのは「泣くこと」より「声が出にくくなること」。声がくずれない工夫をしていけばよい
- 「感じる自分」と「伝える自分」を分けて、一歩うしろから歌をながめる
- 練習では、なみだが出やすい場所を見つけ、歌詞を読む・ハミングする・技術に目を向ける
- 本番では、目線を少し上げ、次のことばの音に集中する。声がつまっても歌いつづけてよい
- つらい思い出の歌はむりにえらばず、泣いた日も自分を責めない
歌に気持ちが入りすぎてしまうのは、それだけ歌を大切にしている証拠です。気持ちとのつきあい方を、いっしょに考えてくれる先生がいると心強いので、まずは通いやすい教室をさがしてみてください。歌の教室さがし心をこめて練習してきた歌を、だれかに聞いてもらいたくなったら、こどもの歌声グランプリものぞいてみてください。オンラインの動画審査だけで出られて、幼児からシニア(65歳以上)までの8部門があり、ジャンルは自由です。講評とデジタル賞状がとどくので、自分の歌のよさを知るきっかけになると思います。こどもの歌声グランプリ