広い会場で声を届けるには。ホールで歌うときのコツ
「いつもの教室ではちゃんと歌えるのに、ホールに立つと声が消えてしまう気がする」 「広い会場で歌うと、自分の声が届かないように感じて、つい大きな声を出してしまう」
発表会やコンクールで、はじめて大きなホールに立つと、こんなふうに感じる方はとても多いです。お子様でも大人の方でも、広い会場ならではのとまどいがあります。
わたしは、息子といっしょに、たくさんのコンクールに出てきました。この記事でお伝えしたいのは、広い会場で声を届けるのに大切なのは「声の大きさ」より「声の向きとひびき」だということです。
この記事では、ホールで歌うコツを、声の届け方にしぼってお話しします。リハーサルの時間の使い方ではなく、本番でも練習でも役に立つ「声を遠くへ運ぶ考え方」をまとめました。
広い会場で声が届かないと感じるのはなぜ?
自分の声が返ってこない
教室や家の部屋は、かべが近いので、歌った声がすぐに自分の耳に返ってきます。ところが、広いホールでは、声が客席のおくまで広がっていくので、自分に返ってくる音がとても少なくなります。
そのため、じっさいには客席にしっかり届いていても、歌っている本人は「声が小さい」「声が消えている」と感じやすいのです。これは、多くの人が感じることなので、心配しなくてだいじょうぶです。
「もっと大きく」と力が入る
声が返ってこないと、不安になって、のどに力を入れて大きな声を出そうとしがちです。でも、のどをしめて出した声は、かたくなって、かえって遠くへ届きにくくなります。のども、つかれやすくなります。
会場の空気にのまれる
天井が高く、客席がずらりとならんでいると、それだけで体がちぢこまってしまうことがあります。肩が上がり、目線が下がると、声も前に出にくくなります。
大きな声より「ひびく声」を意識する
力ではなく、ひびきで届ける
ホールで歌うコツの1つめは、声を「おす」のではなく、「ひびかせる」ことです。口の中や鼻のおく、顔のまわりに声がひびいている感じがあると、無理に大きな声を出さなくても、声は遠くまで届きやすくなります。
練習では、口をとじて「んー」とハミングをしてから、そのひびきのまま口をあけて歌ってみる方法があります。くちびるや鼻のまわりが少しくすぐったいような感じがあれば、ひびきがのっているサインです。
声の大きさとひびきの関係は、こちらの記事でもくわしくまとめています。歌の声量を上げる方法。大きな声より「ひびく声」を出す練習
口の中を広くする
口の中がせまいと、声はこもってしまいます。あくびの入り口のように、のどのおくを少し広げるイメージで歌うと、声がまるく、ゆたかに聞こえやすくなります。ただし、口を大きくあけすぎて、あごに力が入らないように気をつけましょう。
息の流れを止めない
声は、息にのって運ばれます。ことばとことばの間で息が止まると、声もとぎれて、遠くまで届きにくくなります。1つのフレーズを、1本の線のように、息を流しながら歌うことを意識してみてください。
声を「遠くの1点」に向ける
目線を客席のおくへ
広い会場で歌うときは、目線をいちばんうしろの席、または客席のおくのかべのあたりにおいてみましょう。目線が上がると、自然とあごが少し上がり、顔も前を向くので、声が前に出やすくなります。
お子様の場合は、「いちばんうしろの席にすわっている人に、歌をプレゼントしようね」と声をかけると、イメージしやすいことが多いです。
ボールを投げるイメージ
声を、遠くの人に向かってやさしくボールを投げるようにイメージする方法もあります。強く投げつけるのではなく、ふわっと山なりに投げて、相手の手にとどくようにするイメージです。こうしたイメージをもつと、のどに力が入りにくくなります。
足もとを見ない
歌詞や音程が不安なとき、つい足もとや床を見てしまいがちです。でも、下を向くと、声も下に落ちてしまいます。不安なところほど、目線を少し上に保つことを、ふだんの練習から心がけておきましょう。
ことばをはっきり届ける
子音をていねいに
広いホールでは、声がひびく分、ことばがぼやけて聞こえることがあります。客席までことばを届けるには、ことばのはじめの音(子音)を、いつもより少しだけていねいに出すことが大切です。
たとえば、「か」「た」「さ」などのはじめの音を、はっきり、でもやさしく出すイメージです。強く出しすぎると、歌がかたくなってしまうので、「ていねいに」くらいの気持ちでじゅうぶんです。
ことばの最後までのばす
ことばの終わりを、ふっと切ってしまうと、客席にはことばの最後が届きません。音の長さの最後まで、気持ちと息をのせて歌いきるようにしましょう。
少しゆっくり話すような気持ちで
ひびきの多い会場では、早口のように歌うと、ことばがかさなって聞きとりにくくなります。テンポをかえる必要はありませんが、1つ1つのことばを、相手に語りかけるような気持ちで歌うと、伝わりやすくなります。
体の使い方で声を支える
まっすぐ、でもかたくならない姿勢
足を肩はばくらいにひらき、体の重さを両足に同じくらいのせて立ちます。頭のてっぺんが上から軽くひっぱられているようなイメージで立つと、背すじが自然にのびます。
ただし、「よい姿勢をしなくちゃ」と思いすぎて、体がかたまってしまうのはよくありません。ひざを軽くゆるめ、肩の力をぬいておきましょう。
息をたっぷり、でも肩は上げない
広い会場だと、「たくさん息をすわなくちゃ」と思って、肩を上げて大きく息をすってしまうことがあります。肩を上げずに、おなかや背中のまわりがふくらむようなイメージで、ゆったり息をすってみてください。
本番前に体をほぐす
本番の前に、首や肩をゆっくり回したり、軽くその場で足ぶみをしたりすると、体の力がぬけやすくなります。緊張しているときほど、体を少し動かすことが助けになります。
ふだんの練習でできること
ときどき広い場所で歌ってみる
いつも同じ部屋で練習していると、その部屋の聞こえ方になれてしまいます。ときどき、ひろめの部屋や、まわりに迷惑にならない場所で歌ってみると、声が返ってこない感覚になれることができます。
部屋のいちばん遠いところを目標にする
家の中でも、部屋のいちばん遠いかべや、となりの部屋の入り口などを目標にして、そこまで声を届けるつもりで歌ってみましょう。おうちの方に遠くで聞いてもらい、「ことばが聞きとれたか」を教えてもらうのもよい方法です。
録音で聞こえ方をたしかめる
スマホを少しはなれた場所において録音すると、客席にどう聞こえているかに近い音をたしかめられます。歌っているときの感じ方と、録音の聞こえ方のちがいを知っておくと、本番で「声が届いていない」とあせりにくくなります。
先生にホールでの歌い方を相談する
教室の先生は、ホールで歌った経験をたくさんもっていることが多いです。「広い会場で声が届かない気がする」と相談すると、いまの声に合ったアドバイスをもらえると思います。
本番で気をつけたいこと
「声が小さい」と感じても、あせらない
本番で自分の声が小さく聞こえても、それは広い会場ではよくあることです。あせって大きな声を出そうとせず、練習してきたひびきと息の流れを信じて歌いましょう。
マイクがあるときは、マイクにまかせる
会場によっては、マイクを使うこともあります。そのときは、無理に声をはりあげず、マイクとの距離を一定にたもつことを意識すると、聞こえ方が安定しやすくなります。
会場の下見は、声の向きをたしかめるつもりで
ステージに立てる時間があれば、客席のいちばんうしろの席を目で確かめておきましょう。「あそこまで届ける」という目標が見えているだけで、本番の気持ちがずいぶん楽になります。リハーサルの時間の使い方は、こちらにまとめています。リハーサル・会場練習のつかい方。短い時間で歌の何を確かめる?
のどを大切に
広い会場で歌うと、思った以上にのどをつかうことがあります。本番のあとは、水をのんだり、話す時間を少なくしたりして、のどを休めてあげてください。痛みやかすれが何日も続くときは、無理をせず、耳鼻科などのお医者さんに相談してください。
まとめ
- 広い会場では、自分の声が返ってこないので、声が小さく感じやすい
- 大きな声を出そうとせず、ひびきで届けることを意識する
- 目線は客席のおくへ。声を遠くの1点に向けるイメージで
- ことばのはじめの音をていねいに、最後までのばして歌いきる
- 肩を上げずに息をすい、体の力をぬいて立つ
- ふだんから、遠くを目標にした練習や、はなれた場所からの録音をしておく
- のどの痛みやかすれが続くときは、お医者さんに相談する
広い会場で声を届ける力は、少しずつ育っていくものです。練習した歌を、だれかに届けてみたくなったら、こどもの歌声グランプリものぞいてみてください。オンラインの動画審査だけで出られて、幼児からシニア(65歳以上)までの8部門があり、ジャンルは自由です。講評とデジタル賞状がとどくので、つぎのステージにむけた練習のヒントにもなると思います。こどもの歌声グランプリ