バリトンの発声練習。高い音とひくい音を楽に行き来するコツ
「バリトンと言われたけれど、高い音もひくい音も、どちらも中途半端な気がする」 「高い音に上がるときと、ひくい音におりるときで、声がまるで別人のようになってしまう」
声楽でバリトンを歌っている方の中には、こんなふうになやむ方もいます。バリトンは、男性の声の中でまん中にあたる声です。そのぶん、高い音とひくい音の両方を、バランスよく歌うことがもとめられます。
わたしは息子といっしょに、たくさんのコンクールに出てきました。
この記事では、声楽のバリトンにしぼって、発声練習のやり方をまとめました。高い音とひくい音を行き来するときにつまずきやすいところ、声をなめらかにつなぐ練習、そして先生に習うときに知っておきたいことまでお話しします。バリトンの声のよさは、音の高さがかわっても、同じ人の声としてまとまって聞こえることにあります。そのための練習を、いっしょに見ていきましょう。
声楽のバリトンの声の特ちょう
男性の声の、まん中の声
声楽では、男性の声を高いほうから、テノール、バリトン、バスと分けることが多いです。バリトンは、その間にあるまん中の声です。
オペラでは、主人公の友人や父親、ときには主役など、いろいろな役をうけもちます。ドイツ語の歌曲などでも、バリトンのために書かれた曲がたくさんあります。
高い音と、ひくい音の両方を使う
バリトンの曲は、まん中の音を中心にしながら、高い音にもひくい音にも動いていくことが多いです。高い音ではかがやきのある声を、ひくい音では深さのある声をもとめられることもあります。
そのため、どちらか一方だけを練習するのではなく、音の上がり下がりの中で声をそろえていくことが大切になります。
声の種類のちがいを知っておく
テノールやバスとのちがいを知っておくと、自分の声の目指す方向が見えやすくなります。声の種類のちがいについては、こちらの記事でもまとめています。声楽の声の種類とは?ソプラノ・メゾソプラノ・アルト・テノール・バリトン・バスのちがい
高い音とひくい音の行き来でつまずきやすいところ
高い音で、声をおし上げてしまう
高い音に上がるとき、声を下からぐっとおし上げようとすると、のどがしまって、かたい声になりやすくなります。顔が赤くなったり、首のすじがうき出たりするときは、力が入りすぎているサインかもしれません。
ひくい音で、声をおしこんでしまう
反対に、ひくい音におりるときは、あごを引きすぎたり、声を太く作ろうとしたりしがちです。すると、こもった声になったり、ことばが聞きとりにくくなったりします。
切りかわりのところで、声の色がかわる
多くの男性には、音が上がっていくとちゅうで、声の感じがかわりやすいところがあります。ここをむりに同じ力で通ろうとすると、声がひっくりかえったり、急に音色がかわったりします。
バリトンの方は、この切りかわりのところが、曲の中でよく出てくる音域にあることが多いです。そのため、ここをなめらかに通る練習が、とても大切になります。
音ごとに、口の形がかわりすぎる
高い音では口を横に大きく広げ、ひくい音では口をすぼめる、というように、音の高さによって口の形が大きくかわると、声の色もばらばらになりやすくなります。
発声練習をはじめる前に
体と顔の力をぬく
肩をゆっくり回したり、首をやさしくのばしたりして、体の力をぬきましょう。ほおやあごを手で軽くなでて、顔の力をゆるめておくのもおすすめです。
楽に出せる高さを知っておく
まずは、話し声に近い高さで「アー」と声を出し、いちばん楽に出せる音をたしかめておきます。練習は、いつもこの楽な音からはじめて、少しずつ上や下に広げていきます。
自分の切りかわりのところを、ゆっくりさがす
楽な音から、ゆっくり音を上げていき、声の感じがかわりそうになるところを、耳でたしかめてみましょう。むりにそこをこえようとしなくてかまいません。「このあたりで声がかわりやすい」と知っておくだけで、練習のときに意識しやすくなります。
高い音とひくい音を楽に行き来する練習
1 リップロールで、上がり下がりする
くちびるを軽くとじて、息で「ブルルル」とふるわせるリップロールをしながら、ひくい音から高い音へ、また高い音からひくい音へと、サイレンのように上がり下がりします。
リップロールは、息の流れが一定になりやすく、のどに力が入りにくい練習です。声の切りかわりのところも、楽に通りやすくなります。
2 「ウ」の母音で、なめらかにつなぐ
リップロールになれてきたら、「ウー」の母音で同じように上がり下がりします。「ウ」は口の形が大きくかわりにくいので、音の高さがかわっても、声の色をそろえやすい母音です。
- ドミソミドのように、短く上がっておりる
- ドからオクターブ上のドまで、ゆっくり上がっておりる
- 1回ごとに半音ずつ高さをかえる
3 上から下へ、おりてくる練習
バリトンの方には、高い音から下へおりてくる練習もおすすめです。高めの音で軽く声を出し、その軽さをのこしたまま、ひくい音までおりてきます。
下から上がるときは力が入りやすいのですが、上からおりてくると、声が軽いまま、ひくい音まで楽につながることが多いです。上がるときにも、この軽さをわすれないようにしましょう。
4 高い音ほど、口の中をたてに
高い音に上がるとき、口を横に広げるのではなく、口の中をたてに少しひらくイメージを持ってみましょう。あくびのはじめのような、口のおくが少しひろがった感じです。
ひくい音でも、この口の中の形を大きくかえないようにすると、高い音とひくい音の声の色がそろいやすくなります。
5 切りかわりのところは、少し声を軽くする
切りかわりのところに近づいたら、声の重さを少しへらすように意識してみます。大きな声で通りぬけようとするのではなく、少し音量をおさえて、軽く通るイメージです。
はじめは、声がうすく感じるかもしれません。でも、なめらかに通れるようになってから、少しずつ声のゆたかさをもどしていけばだいじょうぶです。
6 母音をかえて、同じ練習をする
「ウ」でできるようになったら、「オ」「ア」「エ」「イ」と、母音をかえて練習します。母音によって、出しやすい音、出しにくい音がちがうことに気づくと思います。出しにくい母音は、出しやすい母音から少しずつ近づけていくと、練習しやすくなります。
7 短いフレーズで、上がり下がりを歌う
最後に、練習している曲の中から、高い音とひくい音が続けて出てくる短い部分をえらび、母音だけで歌ってみます。そのあとで、ことばをつけて歌います。母音で歌ったときのなめらかさが、ことばをつけてものこっているか、たしかめてみましょう。
8 録音して、声の色をくらべる
練習のあとは、録音して聞きかえしましょう。高い音とひくい音で、声の感じがどのくらいかわっているかを聞きくらべると、自分では気づかなかったくせが見えてきます。
練習のときに気をつけたいこと
高い音を、毎日ためしすぎない
いちばん高い音や、いちばんひくい音を、毎日何度もためすと、のどがつかれてしまいます。練習の中心は、楽に出せる音域におき、はしの音は少しだけにしましょう。
1回の練習は、短めにする
声楽の発声練習は、思っている以上に体力を使います。つかれを感じたら休み、毎日少しずつ続けるほうが、のどにやさしいです。
のどの痛みやかすれが続くときは
練習のあとにのどがひりひりしたり、声がかすれたりしたら、声を休めましょう。痛みやかすれが何日も続くときは、むりをせず、耳鼻科などのお医者さんに相談してください。
声楽のバリトンのレッスンで習うこと
声のタイプは、先生といっしょに決める
バリトンなのか、テノールなのか、バスなのかは、すぐに決まらないこともあります。練習を続けるうちに、声がかわっていくこともあります。声のタイプは、先生といっしょに、ゆっくり見きわめていくものです。
練習曲は、まん中の音域から
レッスンでは、まず、まん中の音域を中心にした曲で、声をととのえていくことが多いです。高い音やひくい音がたくさん出てくる曲は、声がなめらかにつながるようになってから、少しずつ取り組んでいきます。
先生えらびで見ておきたいこと
- 男性の声の切りかわりの指導になれているか
- 高い音をむりに出させないか
- 声のタイプを決めつけず、いまの声に合わせてくれるか
- 練習のしかたを、わかりやすく説明してくれるか
まとめ
- バリトンは男性のまん中の声。高い音とひくい音の両方をバランスよく使う
- 高い音でおし上げず、ひくい音でおしこまないことが大切
- 切りかわりのところは、少し声を軽くしてなめらかに通る
- リップロール、「ウ」の母音、上からおりてくる練習で、声の色をそろえる
- 口の中の形を、音の高さで大きくかえない
- 練習は短めに。痛みやかすれが続くときは耳鼻科などのお医者さんに相談する
高い音とひくい音がなめらかにつながると、バリトンの声はぐっとまとまって聞こえるようになります。ひとりでは切りかわりのところがわかりにくいときは、声楽の先生にみてもらうと、練習の方向が見えやすくなります。通いやすい教室は、こちらからさがせます。歌の教室さがし練習の成果をだれかに聞いてもらいたくなったら、こどもの歌声グランプリもあります。オンラインの動画審査だけで出られて、幼児からシニア(65歳以上)までの8部門があり、ジャンルは自由です。講評とデジタル賞状がとどくので、いまの声のよいところを知るきっかけになると思います。こどもの歌声グランプリ